東京高等裁判所 昭和60年(う)1307号 判決
所論にかんがみ検討するに,当審において取り調べた医師徳井達司作成の鑑定書及び同人の当審公判廷における供述によれば,被告人は,かねてから極めて慢性に経過する精神分裂病に罹患し,既に町田市民病院及び多摩病院の各精神科に措置入院となつた経歴を有し,本件犯行当時も妄想状態が持続し,衝動の統制にも著しい障害が存在しており,その判断や行為の基盤に病的人格のあることは否定できないというのであつて,これによれば,被告人に完全な刑事責任能力を認めることはできない。そこで,その程度について更に検討するに,右の各証拠によると,原判示各犯行によると,原判示各犯行に被告人の右疾患による妄想が関与している所見は見当らず,その動機,行動は心理的了解可能の範囲内にあつたことが認められ,これに加えて,原判決挙示の諸証拠によつて認められる被告人の本件当時の生活状況,各犯行の具体的状況,ことに,本件各犯行の点に関する被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述内容は比較的清明な記憶に基づくもので,一応まとまりがあり,支離滅裂なものではないことなどの諸点をも考え合わせると,被告人は,原判示各犯行当時行為の是非善悪を弁識し,その弁識に従つて行動する能力を全く欠いていたとはいえないが,その能力が著しく減弱した状態にあつたものと認めるのが相当である。